マレーシア不動産 確定申告
マレーシア不動産の確定申告|家賃収入の円換算・減価償却・二重課税の整理
最終更新日:2026-10-08
執筆:Yuto Nishitani(ラブアン法人代表・クアラルンプール在住)
マレーシアの物件を賃貸に出すと、税金は2つの国で発生します。物件のあるマレーシアで所得税を納め、日本でも全世界所得の一部として確定申告する必要があります。二重に払いっぱなしになるわけではなく、日本側で外国税額控除を使って調整しますが、そのためには申告の順序と書類の揃え方を知っておく必要があります。この記事では、日本の居住者がマレーシアのコンドミニアムを保有・賃貸・売却する場面ごとに、どちらの国で何を申告するのかを、国税庁・財務省・マレーシア内国歳入庁(LHDN)の資料をもとに整理します(2026年10月時点で確認できた法令・資料にもとづきます)。
結論:マレーシアで納税し、日本で申告して外国税額控除で調整する
日本の居住者(非永住者を除く)は、国内外すべての所得に日本で課税されます。マレーシアのコンドミニアムから得た家賃も例外ではなく、日本では「不動産所得」として確定申告の対象になります。
一方、日本・マレーシア租税条約の第6条により、不動産から生じる所得は不動産の所在地国であるマレーシアでも課税できます。マレーシアでは、暦年の滞在が182日未満の日本人は原則として税務上の非居住者となり、家賃の課税所得に一律30%の所得税がかかります。
この二重課税は、日本側の外国税額控除で調整します。租税条約第22条は、マレーシアで納めた税額を日本の税額から控除することを定めており、国内では所得税法の外国税額控除の制度で処理します。つまり、マレーシアで申告・納税し、その納税を証する書類を日本の確定申告に添付する、という順序になります。
| 場面 | マレーシア側 | 日本側 |
|---|---|---|
| 保有して賃貸 | 非居住者は課税所得に一律30%。Form M(e-M)で申告 | 不動産所得として総合課税。外国税額控除で調整 |
| 赤字が出た場合 | ― | 簡便法などで計算した国外中古建物の償却費から生じた赤字は、なかったものとみなされる(2021年分以降) |
| 売却 | 不動産譲渡益税(RPGT) | 譲渡所得として分離課税。所有5年超は20.315%、5年以下は39.63% |
| 年末の資産額 | ― | 国外財産が5,000万円超なら国外財産調書を提出 |
マレーシア側:非居住者は一律30%、申告はForm M
マレーシアの所得税法では、暦年で182日以上滞在した個人が税務上の居住者とされます(前後の年の連続滞在や90日に関する例外規定もあります)。日本に住みながら物件を貸している人は、通常この基準を満たさないため非居住者です。
LHDNの資料(2025年3月版)によれば、非居住者の個人には課税所得に対して一律30%(2020年賦課年度から)の税率が適用され、居住者向けの人的控除やリベートは受けられません。申告はForm M(電子申告ではe-M)で行い、事業所得がない場合の期限は翌年4月30日です。
30%は家賃の総額ではなく、管理費、評価税(Assessment Tax)、クイットレント、保険料、ローン利息など、賃貸のために生じた経費を差し引いた後の課税所得に掛かると解説されています。どの経費が認められるかは個別判断になるため、現地の税務代理人(Tax Agent)に確認してください。
家賃の支払時にテナントが源泉徴収する仕組みについては、LHDNの公開裁定(Public Ruling No.1/2014)で所得税法109B条の源泉徴収(10%)の対象として挙げられているのは動産の賃料で、不動産の賃料は列挙されていません。このため、コンドミニアムの家賃はオーナー自身の申告で納税する形が一般的です。
- 税務上の居住者判定:暦年182日以上の滞在が原則(例外規定あり)
- 非居住者の税率:課税所得に一律30%、人的控除なし
- 申告書:Form M(e-M)、事業所得がなければ翌年4月30日が期限
- 経費控除後の課税所得に課税(経費の範囲は個別確認)
日本側:家賃は不動産所得、円換算はTTMが原則
日本の不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します。必要経費には、管理費、評価税・クイットレント(日本の固定資産税に相当する現地の税)、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金の利子、管理会社への手数料などが含まれます。私的な費用と区別できることが前提です。
リンギット建ての収入と経費は円に換算します。所得税基本通達57の3-2では、取引日の電信売買相場の仲値(TTM)が原則です。不動産所得については、継続適用を条件に、収入にはTTB、経費にはTTSを使うことも認められています。また、継続適用を条件に、前月末日や当月初日のレート、1か月以内の平均レートを使う方法も認められています。
毎月の家賃をその都度その日のTTMで換算するのは手間がかかるため、最初の年に方法を決め、翌年以降も同じ方法を続けることが実務上のポイントです。年ごとに有利なレートを選ぶ運用は認められません。
- 不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費
- 円換算は取引日のTTMが原則(所得税基本通達57の3-2)
- 継続適用を条件に、収入TTB・経費TTS、月末・月初レート、1か月以内の平均レートも可
- 換算方法は毎年同じ方法を続ける
減価償却:中古は簡便法、RC造住宅の法定耐用年数は47年
建物部分は減価償却費として必要経費にできます。マレーシアのコンドミニアムは鉄筋コンクリート(RC)造が大半で、日本の税法上、住宅用RC造の法定耐用年数は47年です。土地(持分)部分は償却できないため、取得価額を建物と土地に按分する必要があります。
中古物件を取得した場合は、残りの使用可能期間を見積もるのが原則ですが、見積もりが難しい場合は「簡便法」で耐用年数を計算できます。法定耐用年数の全部を経過した資産は「法定耐用年数 × 20%」、一部を経過した資産は「(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%」で、1年未満の端数は切り捨て、2年未満なら2年とします。
計算例:築10年のRC造コンドミニアムを買った場合、(47 − 10)+ 10 × 0.2 = 39年です。新築を買った場合は47年をそのまま使います。耐用年数が長いため、年間の償却費は取得価額に比べて小さくなります。
| 取得時の築年数 | 計算 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 新築 | 法定耐用年数をそのまま使う | 47年 |
| 築5年 | (47 − 5)+ 5 × 0.2 = 43 | 43年 |
| 築10年 | (47 − 10)+ 10 × 0.2 = 39 | 39年 |
| 築20年 | (47 − 20)+ 20 × 0.2 = 31 | 31年 |
2021年分から:国外中古建物の償却で作った赤字は通算できない
令和2年度の税制改正で「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」(租税特別措置法41条の4の3)が設けられ、2021年(令和3年)分以降の所得税に適用されています。かつて広まった「海外の築古物件を短い耐用年数で償却し、給与所得と損益通算して節税する」手法に対応するための規定です。
内容は、国外の不動産所得が赤字になった場合、そのうち簡便法などで計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分は「生じなかったもの」とみなす、というものです。この部分は、国内の不動産所得とも、給与など他の所得とも通算できません。見積法で耐用年数を出した場合も、所在地国の法定耐用年数に沿っていることを示す書類や不動産鑑定士等の評価書などを用意しないと、この規定の対象になると解説されています。
否認された金額が完全に消えるわけではありません。売却時には、取得費から差し引く減価償却費の累計額から、この「生じなかったもの」とされた金額が除かれ、譲渡所得の計算で調整されます。
マレーシアの物件は新築や築浅が多く、RC造47年を基準に償却するため、もともと大きな赤字は出にくい構造です。「マレーシア不動産で節税できる」という説明を受けた場合は、この改正後の制度と整合しているかを税理士に確認してください。
- 適用:2021年(令和3年)分以降の所得税
- 対象:国外中古建物のうち、簡便法など短い耐用年数で計算した償却費から生じた赤字
- 効果:国内の他の所得と損益通算できない(生じなかったものとみなす)
- 売却時:取得費の計算で調整される
二重課税の調整:外国税額控除の上限と添付書類
外国税額控除で控除できる上限は「その年の所得税額 × 調整国外所得金額 ÷ 所得総額」です。上限を超えた部分は復興特別所得税や住民税から控除できる仕組みがあり、なお控除しきれない額や使わなかった限度額は3年間繰り越せます。
申告には、外国税額控除に関する明細書に加えて、マレーシアで税金を納めたことを証する書類と、マレーシアの申告書の写しなどを添付します。マレーシアの申告期限(翌年4月30日)は日本の確定申告期限(翌年3月15日)より後に来るため、どの年分で控除を適用するかは、現地の申告と納付の時期を踏まえて税理士と決めてください。
マレーシアの非居住者税率30%は低い水準ではありません。家賃収入や日本側の所得の構成によっては、マレーシアで払った税が日本の控除限度額を上回り、控除しきれない部分が出ることもあります。
売却したとき:日本では所有期間5年が税率の境目
物件を売却した場合、租税条約第13条により所在地国のマレーシアが課税でき、マレーシアでは不動産譲渡益税(RPGT)がかかります。日本の居住者は日本でも譲渡所得として申告し、ここでも外国税額控除で調整します。
日本の譲渡所得は他の所得と分けて課税(分離課税)され、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。5年超の長期譲渡所得は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えて20.315%、5年以下の短期譲渡所得は所得税30%・住民税9%に復興特別所得税を加えて39.63%です。
円換算は、売却代金は売却時のレート、取得費は取得時のレートで換算します。リンギット建てで値上がりしていなくても、取得時より円安が進んでいれば円ベースの譲渡益が生じて課税されることがあります。逆に、リンギット建てで利益が出ていても、円高で日本側では損失になることもあります。
国外財産調書と、海外送金の記録
その年の12月31日時点で国外にある財産の合計額が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する義務があります。マレーシアの物件と現地の銀行預金は合算して判定します。
提出していれば、その財産に関する所得の申告漏れがあった場合に過少申告加算税等が5%軽減され、提出しなかった場合や記載漏れがあった場合は5%加重されます。正当な理由なく提出しない場合などには罰則規定もあります。
また、日本の金融機関は100万円を超える国外送金について国外送金等調書を税務署に提出しています。物件購入や家賃の送金は税務当局が把握できる前提で、収入と経費の記録を残してください。
出典
- 国税庁 タックスアンサーNo.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 国税庁「所得税基本通達57の3-2(外貨建取引の換算)」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5404「中古資産の耐用年数」
- 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1391「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」
- 国税庁 タックスアンサーNo.3261「建物の取得費の計算」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1240「居住者に係る外国税額控除」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1440「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
- 国税庁 タックスアンサーNo.7456「国外財産調書の提出制度」
- 財務省「日・マレーシア租税条約(統合条文)」
- LHDN「Tax Treatment: Residents & Non-Residents」(2025年3月版)
- LHDN Public Ruling No.1/2014「Withholding Tax on Special Classes of Income」
この記事の著者
Yuto Nishitani ラブアン法人代表
ラブアン法人代表として、2025年10月からマレーシア・クアラルンプールに単身で暮らしています。
現在はクアラルンプールのブキッ・ビンタンで物件を賃貸して暮らしています。
マレーシア不動産の購入・投資に関する記事は、政府・当局の公表資料などの一次資料に基づいて整理したもので、物件を購入した経験に基づくものではありません。
マレーシア不動産の購入前に、条件を整理しませんか?
予算、購入目的、希望エリア、移住予定の有無によって、見るべき物件や確認すべきリスクは変わります。まずは無料相談で、あなたの条件に合う選択肢を整理できます。
よくある質問
マレーシアの物件の家賃収入は日本で確定申告が必要ですか?
日本の居住者(非永住者を除く)は全世界所得に課税されるため、マレーシアの家賃収入も日本で不動産所得として確定申告の対象になります。マレーシアで納めた所得税は、日本の外国税額控除で調整します。
マレーシアでは家賃収入に何%の税金がかかりますか?
マレーシアの税務上の非居住者(暦年の滞在182日未満が原則)には、課税所得に一律30%の所得税がかかります(LHDN資料、2020年賦課年度以降)。人的控除は受けられず、申告はForm M(e-M)で行います。
マレーシアの中古コンドミニアムの耐用年数は何年ですか?
日本の税法上、住宅用RC造の法定耐用年数は47年です。中古で買い、見積もりが難しい場合は簡便法で「(47 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%」とします。築10年なら39年です。
海外不動産の減価償却で節税できますか?
2021年分以降は、国外中古建物について簡便法などで計算した減価償却費から生じた赤字は、なかったものとみなされ、給与など他の所得と損益通算できません。節税を前提にした提案は、この改正を踏まえているか確認してください。
円換算はどのレートを使いますか?
原則は取引日のTTM(電信売買相場の仲値)です。不動産所得は継続適用を条件に、収入にTTB、経費にTTSを使うことや、前月末日・当月初日のレート、1か月以内の平均レートを使うことも認められています。
国外財産調書は必要ですか?
12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出します。マレーシアの物件と現地預金は合算して判定します。
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